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自閉スペクトラム症:ASDの症状と運動に関わる研究について

執筆者の写真: LIM projectsLIM projects


ASDに関する投稿ですが、前回は、ASDの運動能力についての投稿でした。


ASDの運動能力について



今回は、自閉スペクトラムの症状とDCDによる困難さを運動で解決できる可能性があるという研究をご紹介します。

 



研究1. ASDとGABAの関係


国立障害者リハビリテーションセンターと杏林大学らの研究グループにより、自閉スペクトラム症の多くにみられる協調運動の困難さが、脳の運動領域に含まれている GABAという神経伝達物質の濃度と関係あることが発見されました。

GABA は神経活動を抑制するはたらきがあります。

 

研究のポイント

・ASD 者と定型発達者を含む全体のデータでは、一次運動野のGABA 濃度が高い人ほど、全身の筋肉の大きな力を必要とする運動スキルが低下していた。

・ASD 者だけのデータでは、補足運動野のGABA 濃度が低い人ほど、全身を協調して動かす必要のある運動スキルが低下していた。

参考文献:自閉スペクトラム症者の運動の不器用さの神経科学的根拠を世界で初めて発見

 

 

つまりGABAの濃度が高いと大きな筋力を要する運動が困難になる可能性が考えられました。


そして GABA濃度が低下すると、神経活動の抑制と調節が困難になり、協調運動の能力が低下すると考えられます。

 

・一次運動野:大脳皮質の中で、中心溝の前方に位置する領域のことです。随意的な運動のに関わる大脳皮質の高次運動野や 頭頂連合野からの入力を統合して最終的な運動指令を形成し、これを脳幹や脊髄へ出力する役割を担います。

・補足運動野:大脳皮質のうち前頭葉に位置し、Brodmann脳地図の 6 野内側部を占める領域のことを指します。

一次運動野とは異なる役割を持っており、協調運動の制御を行っていると言われています。

・GABA:ガンマ・アミノ酪酸。アミノ酸のひとつで、主に抑制性の神経伝達物質として機能している物質です。

・定型発達:発達症号ではない多数派の人々を意味する用語。定型や通常発達とも言う。


研究2. 運動でGABAの放出が増加する



・プリンストン大学の論文によると、運動をしているマウスはそうでないマウスよりもGABAの放出量が多いことがわかっています。


つまり運動をしている人ほど過度の不安感やストレスに対する耐性が強い可能性があります。

 

研究3. 運動でミラーニューロンの働きが活発になる



ASD はミラーニューロンシステム(MNS)と関わりがあることが研究によって知られています。

・Marco Lacoboni, Roger P Woods, Marcel Brass,Harold Bekkering, "Cortical mechanisms of human imitation," Science, vol. 186, pp. 2526-2528, 1999.

 

そして、ASD 患者は行動の模倣時に健常者と比べて,ミラーニューロン領域が比較的低い活性を示す傾向にあることもわかっています。

・Mirella Dapretto, Mari S Davis , Jennifer HPfeifer , Susasn Y Bookheimer, "Understanding emotions in others: mirror neuron dysfunction in children with autism spectrum disorders," Nature neuroscience, vol. 9, pp. 28-30, 2006.

 

さらに、日常的に運動を行っているASD 患者は、運動をしていないASD 患者と比較して、ミラーニューロンの働きが相対的に活発であることが認められています。


この結果は、日常的な運動がASDの症状を改善させる可能性を示しており、運動による症状の改善効果を定量的に示す指標になると考えられます。

・自閉症スペクトラムに運動が及ぼす改善効果の定量的評価

 

※ミラーニューロン:相手の心を理解する能力の神経細胞。「ものまねニューロン」ともいわれ、人が実際に自分自身で行動するときと、他者の行動を観察するときの両方で活動を示し、運動やコミュニケーションなど、さまざまな脳の働きにおいて重要な役割を果たしている。

 

研究4. 運動は社会的スキルの向上を促す



ASD には有効な治療法が確立されていませんが、日常的に運動を行うことで運動能力の向上だけでなく、社会的スキルの向上を促し、ASD の症状を改善するという研究結果が報告されています(テヘラン大学)

 

研究の背景:この研究は、自閉症スペクトラム障害 (ASD)を持つ子供の運動能力および社会的行動スキルが日常的な運動(スポーツ、遊び、アクティブなレクリエーション )で改善できるのかを調査 した。


方法::28 人の ASD を有する子供 (年齢範囲 5 ~ 12 歳) がこの研究に参加した。

参加者は、運動能力検査、自閉症治療評価チェックリスト、自閉症評価スケールを使用して、評価を行った。

 

結果:日常的に運動を行ったASDの子供のバランス能力(静的および動的)、および社会的行動スキルを大幅に改善した(p < 0.05) ことを示しました。

 

結論:この研究の結果は、運動スポーツ、遊び、アクティブなレクリエーション )によってASDの子供の身体能力の強化だけでなく、社会的スキルを向上させるための治療オプションとして考慮できることを示唆しました。

参考文献

Najafabadi Mahboubeh Ghayour, Sheikh Mahmoud, Hemayattalab Rasoul, Memari, Amir-Hossein, Aderyani Maryam Rezaii, Hafizi Sina,"The effect of SPARK on social and motor skills of children with autism," Pediatrics and Neonatology, vol. 59, pp. 481-487, 2018.

 

研究5. 運動によって、自閉症様行動が改善される


図引用文献:運動が自閉症様行動とシナプス変性を改善する MegumiAndoh,KazukiShibata,KazukiOkamoto,JunyaOnodera, KoheiMorishita, Yuki Miura, YujiIkegaya,RyutaKoyama, "Exercise reverses behavioral and synaptic abnormalities after maternal inflammation," Cell Reports: 2019年6月4日

東京大学の研究では、神経発達障害である自閉症様行動の治療法として、運動が有効である可能性を検証し、自閉症モデルマウスによる行動試験を行ったところ、社会性障害や常同行動などの自閉症様行動が改善されたと報告しています。


 

まとめ



・対人関係が苦手・強いこだわり・緊張しやすいといった特徴をもつ発達障害の一つ

・社会的な困難さや運動能力の低下により、日常生活の送りにくさがある

・原因は、確定していないが、脳内物質や神経伝達の調整が難しいことが関連していると言われている(GABA、セロトニン、MNS)

・これらの症状は運動を行うことで緩和、改善できる可能性がある

 

以上のことから、自閉スペクトラム症を有する方に対して適切な運動を提供することで、コミュニケーション能力と運動能力の向上が期待できます。


参考情報


 




・Marco Lacoboni, Roger P Woods, Marcel Brass,Harold Bekkering, "Cortical mechanisms of human imitation," Science, vol. 186, pp. 2526-2528, 1999.

 

・Mirella Dapretto, Mari S Davis , Jennifer HPfeifer , Susasn Y Bookheimer, "Understanding emotions in others: mirror neuron dysfunction in children with autism spectrum disorders," Nature neuroscience, vol. 9, pp. 28-30, 2006.

 

 

・Najafabadi Mahboubeh Ghayour, Sheikh Mahmoud, Hemayattalab Rasoul, Memari, Amir-Hossein, Aderyani Maryam Rezaii, Hafizi Sina,"The effect of SPARK on social and motor skills of children with autism," Pediatrics and Neonatology, vol. 59, pp. 481-487, 2018.

 

 

 

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